白石晃士監督がまたしても送りつけられた!狂気の記録『白石晃士の決して送ってこないで下さい』
恐怖映像の果てに何を見る?
ホラー映画界の鬼才、白石晃士監督のもとには日々、奇妙な映像が送られてくるという。その中でも特に異彩を放つのが、若いカップル、圭介とユキが廃墟で体験した恐怖を記録した映像だ。これは、ただの心霊映像ではない。彼らの関係性、そして圭介の過去が明らかになるにつれて、現実と怪異が複雑に絡み合い、観る者を深淵へと引きずり込んでいく――。
廃墟で突如姿を消し、「黒い人」を目撃したと語り出すユキ。不可解な現象が続く中、彼らが見つけた1本のVHSテープを再生すると、ユキの体調はさらに悪化していく。そして、圭介の隠されたDV気質や女性関係のトラブルが暴かれるにつれ、白石監督は事態の核心に引き込まれていくことになる。
作品概要
- タイトル: 白石晃士の決して送ってこないで下さい
- 監督: 白石晃士
- 脚本: 白石晃士
- 出演: 有川舞衣子、かいばしら、清瀬やえこ、沖田遊戯
- 年: 2023年
- 上映時間: 79分
- 国: 日本
点数:3点
- 5 … 人に紹介できる面白さが解る映画
- 4 … 感性の違いはあるかもしれないが面白い映画
- 3 … 時間の無駄とは感じなかった映画
- 2 … 最後まで見ることができないこともある映画
- 1 … 紹介してきた人を殴りたくなる
ストーリー(ネタバレあり)
「ノロイ」や「貞子vs伽椰子」、「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズなど、日本のホラー作品好きにはお馴染みの白石晃士監督。彼の元には、不可解なものが映り込んだ恐怖映像が日々届けられます。本作で選りすぐられたのは、ある若いカップルにまつわる複数本の映像。
それは、圭介とユキが幽霊が出ると噂される廃墟へ撮影に赴くところから始まります。昼間でも薄暗い廃墟を探索する映像は、最初は特に変わったことも起きません。圭介が驚かせようと隠れると、ユキがロープウェイに入っていきますが、いつまで待ってもユキは探しに来ません。圭介が戻ると、ユキの姿は消えていました。この時の映像はユキの首から下げていたカメラでは撮影されておらず、この出来事を境に不可解な現象が頻発し始めます。
ロープウェイの中にいなかったはずのユキが、もう一度入ってみると隅で泣いており、「黒い人」を見たと言い出します。言い争いになると、本当に黒い影が壁から滲み出し、再びユキが姿を消します。廃墟を駆け回った圭介は彼女を見つけますが、その手にはVHSテープが握られていました。
後日、そのテープを再生するとユキはおかしくなり、病院で手当てを受けることになります。テープに映っていたのは、廃墟で撮影をしている女性の映像。そこに通りかかった男が女性を襲おうとしますが、男は奇妙な音に気を取られ、女性によって返り討ちに合うというものでした。
その後も、カラメと名乗る女性から「圭介はヤバい奴だ」という告発と共に、圭介とユキが言い争う様子を隠し撮りした映像が送られてきます。さらに後日、カラメから白石監督の住所を知っているという脅迫めいた電話がかかってきます。「圭介を追求することがお前の使命だ」と告げるカラメ。
さすがの白石監督も圭介の背景を探り始めます。圭介にはDV気質があること、彼と揉めていた複数の女性の存在、さらには自殺した4人の女性との関わりが明らかになります。しかし、圭介とユキは「愛し合っているから別れない」と白石監督に告げます。
次の映像は、二人が気分転換に山登りを行っている最中の決定的瞬間を捉えたもの。白石監督は、この映像を観て不可解なことが起きても責任は持たないと前置きし、山登りの映像へと切り替わるのでした。
感想(ネタバレあり)
本作は、作中の映像が数回にわたって白石監督のもとに届けられ、廃墟探索、ユキの自殺未遂、圭介の部屋の隠し撮り、そして二人の山登りと、あるカップルの出来事が時系列で送られてくる構成となっています。
初見の考察:ホラーとしての明快な筋書き
一度目に観る際は、純粋なホラー作品として楽しむことができます。白石監督が用意した分かりやすい伏線、例えば廃墟でのカメラの故障や壁から現れる4つの影などから、ユキが謎の存在に憑依されて危険な行動を起こし、圭介がそれに翻弄される展開が描かれています。
最終的には、圭介がこれまで女性にしてきた暴力的な行為が自身に降りかかるかのように、彼も障害を負い、ユキに支えられながらも立場が入れ替わる形で物語は幕を閉じます。
二度見の深層:白石監督が仕掛けた謎
最初は圭介がカメラを持ち、廃墟を探索しながらユキに行動を指示し、不機嫌な言動や相手を非難する言葉遣いが目立っていました。しかし、ラストの山登りの後の映像では、ユキがカメラを持って圭介を撮影し、暴力的な行為も今はユキが行っていることを匂わせるような言葉が飛び交います。最後にユキの顔だけ色合いが変化し、顔を歪ませる演出は、今も何らかの存在が彼女に憑依していることを感じさせ、不気味な余韻を残します。
このように分かりやすい伏線を追うと、上記のような感想や考察に行き着きますが、二度目に観ると、白石監督が仕込んだ分かりづらい謎が目に付くようになります。
未解明な謎:VHSテープとカラメ
その中でも、いまだに謎として残っているのが、VHSテープの映像と、カラメという女性の存在です。
廃墟で撮影している女性が、その場を通りかかった男に絡まれて襲われそうになり、返り討ちにする映像。この時、女性が男を倒した後の背景に、わざとらしく小さな社殿が見えます。男の気を逸らした音も、この社殿に関係があるのかもしれません。ユキが山登りで最後に辿り着いた場所にも、人の背ほどの社殿があり、そこから黒い人が飛び出してくることから、女性に暴力的な行為をする男を襲う存在なのかもしれません。これは、襲われる女性とユキが同じような立場にあることを示唆しているようにも思えます。
そして、勝手に不法侵入して隠し撮りを行い、白石監督に脅迫電話までかけてきたカラメという女性は謎だらけです。山登りのシーンでは、ユキが辿り着いた社殿の隣におり、ユキに先を示すような場面もありますが、彼女がどういった存在なのかは不明です。人間であるかどうかも怪しく、SNSで動画を送ってきていますが、それは別人のSNSを通して送られてきています。
白石監督との会話で、彼女が自身を名乗る際に「カラメという名前でいききしている」と答える場面があります。「名乗っている」ではなく「いききしている」と答えているため、この世界の生物とは異なる存在である可能性も示唆しており、私の解釈力では未だに謎として残ってしまいました。