時間が巻き戻る独特な構成で描かれる異色のホラー映画『呪霊 THE MOVIE 黒呪霊』。
ネットで噂の幽霊「黒い人」の呪いが、少女たちから過去の犠牲者へと連鎖しながら明かされていく。オムニバス形式で進む不可解な展開は一度観ただけでは理解が難しく、再視聴でようやく全貌が見える仕組みに。『呪怨』を彷彿とさせる演出や、救いのない恐怖がじわじわと迫る一作。

あらすじ

深夜、ダンスの練習に励むミホ、アサミ、ヒカル、キョウコの4人。ネットでささやかれる謎の幽霊「黒い人」の噂を耳にした彼女たちは、やがてその恐怖に直面する。

「黒い人」の呪いは、すでに多くの人々を蝕んでいました。女子高生の紀子とその父・一繁、紀子の友人・理絵とバイト先の店長・悦子、弟の純哉、母・真由子、入院中の祖母・澄江、同級生の仁美、そして仁美と映画館で出会った少女・ちとせ――次々と彼らを襲う「黒い人」の影。この連鎖する恐怖の正体とは一体何なのか?

 

作品概要
  • タイトル: 呪霊 THE MOVIE 黒呪霊
  • 監督: 白石晃士
  • 脚本: 横田直幸
  • 出演
    前田紀子(若槻千夏)
    川嶋理絵(上野未来)
    原仁美一(戸恵梨子)
  • 年: 2004
  • 上映時間: 74分
  • 国: 日本
点数:3点
  • 5 … 人に紹介できる面白さが解る映画
  • 4 … 感性の違いはあるかもしれないが面白い映画
  • 3 … 時間の無駄とは感じなかった映画
  • 2 … 最後まで見ることができないこともある映画
  • 1 … 紹介してきた人を殴りたくなる

 

◆感想

一度では理解不能!?巻き戻る時間軸が織りなす新感覚ホラー

正直に言うと、『呪霊 THE MOVIE 黒呪霊』は非常によくできたホラー映画でありながら、一度観ただけではその全貌を把握しづらいかもしれません。なぜなら、この作品は一般的なホラー映画とは全く異なる、斬新な時間軸の演出を採用しているからです。

通常の物語が未来へと進むのに対し、本作は「最後の犠牲者」からスタートし、その人物がなぜ呪われたのかを、その前の犠牲者、さらにその前の犠牲者へと時間を現在から過去へと巻き戻していくという、オムニバス形式のホラーとして展開していきます。

そのため、物語は「第10話」から始まり、時間が進むにつれてエピソードが「第9話」「第8話」と戻っていきます。最終的に「第1話」まで遡ることで、「黒い人」の呪いがどのように伝播していったのか、その流れがようやく理解できる仕組みとなっています。

純粋にホラーとしての恐怖を味わうだけなら一度で十分ですが、この複雑なストーリーテリングの妙を深く理解したいなら、二度観ることをおすすめします!


白石晃士監督が仕掛ける巧妙な演出と『呪怨』の影響

作中で特にゾッとしたのは、第3話のおばあさんのシーンです。視点をあえてぼかす演出が巧みで、おばあさんが画面のこちら側と幽霊がいる側を交互に見つめることで、病室の隅に存在してはいけないモノの気配が、役者さんの演技も相まって、薄暗い恐怖として見事に伝わってきます。

本作は、今やホラー映画界の第一人者である白石晃士監督が、2004年に手掛けた監督作品です。2003年の『ほんとにあった! 呪いのビデオ THE MOVIE』でも演出としてその才能を発揮しており、毎年コンスタントに作品を発表されていることには驚かされます。

さて、『呪霊 THE MOVE 黒呪霊』を観て個人的に感じた点を3つ挙げます。

  • 時間が巻き戻るため、最初は少々わかりづらい
  • 映画『呪怨』へのオマージュが強く感じられる
  • 映像の粗さが気になる

特に気になったのは映像の粗さです。U-NEXTやAmazonVideoで確認しましたが、この時代の劇場公開作品としては、まるでテレビ画質のように滲んで見づらく、情報量が削がれているように感じました。これがホラー演出の一環だと言われれば納得できる部分もありますが、オープニングやエンディングのキャスト名まで見づらかったので、元のデータ自体の質があまり良くない可能性も考えられます。

また、画質は仕方ないとしても、作品全体に『呪怨』からの強い影響を感じます。例えば、幽霊の声とも言えるカエルが潰れるような鳴き声や、白塗りで登場する霊のビジュアルなど、「これ、どこかで見たことあるな」と感じる演出が随所に散りばめられています。もちろん、2000年代初頭に鮮烈なインパクトを与え、その後のホラー映画に多大な影響を与えた『呪怨』から着想を得るのは自然なことですが、ここまで真似る必要はあったのかと見ながらも思ってはしまうのは許していただきたいです。

作品の方向性もまさにオムニバス形式で、第10話から第1話へと時間を遡りながら、様々な人々が霊によって殺され、その呪いが連鎖していくという構成です。『呪怨』の「家」ではなく「呪い」の伝播を軸にしたオマージュと考えると、大きくは外れていないように感じます。


救いのない「全員呪われろ」の恐怖

この映画の最大の特徴は、やはり「時間が巻き戻る」という極めてユニークな演出です。タイトルコールとキャスト紹介の後、物語は唐突に第10話から始まります。深夜、大きなガラス窓のあるビルでダンス練習をする少女たちが、「黒い人」の噂話をしていると、仲間の一人が動かなくなり、霊に襲われる…そして物語は「第9話」へと巻き戻ります。

話が巻き戻るごとに、「黒い人」に襲われた人々がどこで呪いに感染し、どのように霊に襲われることになったのか、そのきっかけが徐々に明らかになっていきます。最初は完全に話に置いていかれているような感覚で、何が起きているのかわからない「気持ち悪さ」が心に募るかもしれません。

それでも話数が戻っていくごとに、登場人物たちが呪われる原因となった出来事が描かれていくのですが、改めて見返しても、本当に些細な一言二言を交わしただけで呪いが伝播していきます。物語全体に救いが一切感じられず、「関わった人は全員呪われろ」という、ホラー映画としての徹底した意思を感じさせられます。その点においては、まさにホラー作品として非常に完成度が高いです。

『呪霊 THE MOVIE 黒呪霊』は、一風変わった構成でじわじわと恐怖を積み重ねていく、まさに「観る恐怖体験」でした。あなたもこの異色のホラーを体験してみませんか?