平山夢明『東京伝説』を映像化したオムニバスホラー。文章での恐怖は映像化で薄まり、怖さよりも違和感やシュールさが際立つ作品に。

『劇場版 東京伝説 恐怖の人間地獄』ホラーオムニバス映画レビュー:原作の魅力と映像化の課題

『東京伝説』は、平山夢明さんの同名小説を原作とした5つの短編からなるオムニバスホラー映画です。原作は怪奇や超常現象を排除し、現実で起こりうる状況を通じて人間の想像力と文章力で恐怖を描き出す作品として、高い人気を誇ります。人間が生み出すリアルな恐怖を表現した原作の魅力は確かですが、映像化においては監督の解釈、倫理的制約、予算の影響により、残念ながらその魅力が十分に発揮されていないと感じます。

映像化では、サイコな人物や犯罪者の描写がどうしても陳腐になりがちで、細かな設定への疑問が浮かぶことも少なくありません。文章では恐怖や不気味さを強く感じる部分が、映像になるとシュールさやギャグ感が強調されてしまい、怖さが半減してしまう場面も。ホラー映画を多く見てきた視聴者としては、奇をてらった表現が意図的なのか、ホラーとしての宿命なのか、考えてしまう点も多かったです。

ちなみに、2作あります。
・『劇場版 東京伝説 歪んだ異形都市』
・『劇場版 東京伝説 恐怖の人間地獄』

以下、各話のあらすじと感想を紹介します。※ネタバレを含みますので、未視聴の方はご注意ください。

第1話『立ち読み』

あらすじ

漫画喫茶でブースに入り本を読もうとする主人公。すると、非通知の着信が繰り返し鳴り、不気味な雰囲気に包まれます。周囲を見渡しても誰もおらず、電話に出ても無言。声をかけると自分の声がかすかに反響して聞こえてくるだけ…。

感想

都市伝説風のストーリーを期待しましたが、生きている人間の怖さを描いたオチは非常に微妙。原作では文章ならではの不気味さが際立つのでしょうが、映像化されるとどうしても陳腐に感じます。恐怖の演出が物足りなく、期待したほどのインパクトはありませんでした。

第2話『エンスト』

あらすじ

ガソリンスタンドで給油を待つ主人公。しかし、スタッフがなかなか現れず、ようやく出てきた男は不自然に汚れた作業着を着て不気味な雰囲気。お茶を差し出され、給油が始まるものの、主人公がスタンドの建物内を覗くと、手錠をかけられた女性が。恐怖を感じた主人公は逃げ出そうとするが…。

感想

スタッフが現れないなら別のスタンドに行く選択肢もありそうですが、田舎で他に選択肢がないという設定なのでしょうか。男の不審な行動や目的が不明で、誘拐が目的だとしても場所が非効率的すぎる点が気になります。恐怖よりも「なぜ?」という疑問が勝ってしまい、ホラーとしての緊張感が薄れてしまいました。

第3話『ネックレス』

あらすじ

就活に失敗した女性が公園で休んでいると、封筒を発見。封筒に書かれた指示に従って次の場所を探すと、さらに別の封筒が現れる…。

感想

スプラッター要素を強調すれば怖くなるわけではありません。ショートホラーゆえに犯人の目的や背景が明かされず、行為の意味が不明瞭なため、恐怖よりも疑問が先に立ってしまいます。ホラーとしての怖さが薄れ、ストーリーの意図が伝わりにくかった印象です。

第4話『夜道』

あらすじ

道路の真ん中に寝転がる男を避けて通る主人公。すると突然、「俺の影を踏んだな」と絡んでくる奇妙な男が現れ、逃げてもさらに先に同じような男が現れる…。

感想

サイコホラーとしては怖さよりもコメディ要素が強く、若干の不気味さはあるものの、全体的に軽い印象。恐怖というよりシュールな展開に笑ってしまう場面もあり、ホラーとしては物足りませんでした。

第5話『食べてはいけない』

あらすじ

風俗嬢を呼んだ男が、彼女の爪や耳垢を食べたいという異常な要求を突きつける。

感想

原作の怖さや不気味さがどう表現されているのか気になりますが、映像では気持ち悪さを強調したものの、恐怖というより単なる不快感に終始。サイコホラーというより、奇抜な設定で観客を驚かせようとした意図が透けて見え、微妙な後味を残します。

総評

『東京伝説』は、原作の持つ人間の闇やリアルな恐怖を映像化しようとした意欲的な作品ですが、映像ならではの制約や表現の難しさにより、原作の魅力が薄れてしまった印象です。ホラー好きとしては、文章で感じる不気味さや想像力を掻き立てる力が映像では再現しきれていない点が残念。各話のアイデアは興味深いものの、全体的に恐怖よりも疑問やシュールさが先行してしまい、ホラー映画としての満足度は低めでした。

原作ファンの方は、文章ならではの恐怖を味わうために原作小説を手に取ることをおすすめします。映像化された本作は、ホラーというより奇抜な人間ドラマとして楽しむのが良いかもしれません。